脂質異常症とは、LDLコレステロール140mg/dL以上・中性脂肪150mg/dL以上(随時採血では175mg/dL以上)・HDLコレステロール40mg/dL未満のいずれか1項目でも当てはまる状態を指します。診断されても、一次予防ではまず3〜6か月の生活習慣改善から始めるのが基本とされています。
この記事でわかること
- 脂質異常症の診断基準は4区分。1項目でも超えれば診断される。
- 学会の「診断基準」と健診の「判定値」は目的が違う。混同すると数字が食い違って見える。
- 中性脂肪は空腹時150・随時175mg/dLと基準が分かれる理由。
- 中性脂肪300mg/dL以上で受診勧奨、500mg/dL以上は早期受診という公的な線引き。
- 診断=すぐ薬ではない。一次予防はまず3〜6か月の生活習慣改善が基本。
公的情報源: 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」「脂質異常症診療のQ&A」/厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」(2026年7月閲覧)
中性脂肪の数値そのものの見方を先に知りたい方は、基準値の記事からどうぞ。
結論を先に書きます
脂質異常症は「血液中の脂質の値が基準から外れた状態」を指す病名です。かつて高脂血症と呼ばれていましたが、HDLコレステロールが低い状態も含むため2007年に名称が変わりました。
そして診断で最も誤解されやすいのが、健康診断の結果票に並ぶ数字との関係です。学会の診断基準と健診の判定値は、目的が違うため数値も違います。ここを分けて理解すると、結果票の読み方が一気に整理されます。
- 診断基準はLDL-C 140以上/中性脂肪 空腹時150・随時175以上/HDL-C 40未満(mg/dL)
- 健診の判定値は「保健指導」と「受診勧奨」の2段階で、行動を振り分けるための線
- 中性脂肪が500mg/dL以上なら空腹時・随時を問わず早期受診が示されている
- 治療目標値はリスク区分ごとに違う。全員が同じ数値を目指すわけではない
脂質異常症とは?診断基準は「1項目でも超えたら」
脂質異常症とは、血液中の脂質(コレステロール・中性脂肪)の値が基準から外れた状態です。4つの区分のうち1項目でも該当すれば診断されます。
日本動脈硬化学会は、原則として10時間以上絶食した空腹時の採血で、総コレステロール・中性脂肪・HDLコレステロールを測り、LDLコレステロールを算出して判定するとしています。

診断基準の数値を項目別に整理
診断基準は次のとおりです。境界域という中間の区分がある点も押さえておきたいところ。
脂質異常症の診断基準(空腹時採血・mg/dL)
| 区分 | 基準 | 意味合い |
|---|---|---|
| 高LDLコレステロール血症 | LDL-C 140以上 | いわゆる悪玉が高い |
| 境界域高LDLコレステロール血症 | LDL-C 120〜139 | 高値と正常の中間 |
| 低HDLコレステロール血症 | HDL-C 40未満 | いわゆる善玉が低い |
| 高トリグリセライド血症 | 空腹時150以上/随時175以上 | 中性脂肪が高い |
| 高non-HDLコレステロール血症 | non-HDL-C 170以上 | 境界域は150〜169 |
出典は日本動脈硬化学会の脂質異常症診療のQ&Aおよび動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版です。
「高脂血症」との違いはHDLの扱い
高脂血症という古い呼び方では、HDLコレステロールが低い状態をうまく表現できませんでした。HDLは低いほど問題になるため、「高い」という言葉と噛み合わないのです。
そこで脂質の値が「異常」であることを広く指す脂質異常症へ名称が変わりました。低HDLコレステロール血症も含めて1つの病名で扱えるようになったわけです。
各項目の役割の違いは中性脂肪とコレステロールの違いで整理しています。
学会の「診断基準」と健診の「判定値」は別物
結果票の数字が記事で見た基準と違う、と感じる原因はここにあります。学会の診断基準は「病名の判定」、健診の判定値は「次にとる行動の振り分け」で、そもそも目的が違います。
厚生労働省の「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」では、健診項目ごとに保健指導判定値と受診勧奨判定値の2段階が定められています。

健診の保健指導判定値・受診勧奨判定値(脂質・mg/dL)
| 項目 | 保健指導判定値 | 受診勧奨判定値 |
|---|---|---|
| 空腹時中性脂肪 | 150以上 | 300以上 |
| 随時中性脂肪 | 175以上 | 300以上 |
| LDLコレステロール | 120以上 | 140以上 |
| non-HDLコレステロール | 150以上 | 170以上 |
| HDLコレステロール | 40未満 | 設定なし |
数値は厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」別紙5によります。
診断基準では140以上で高LDLコレステロール血症ですが、健診では120以上から保健指導の対象になります。健診のほうが早い段階で声をかける設計になっている、と理解すると混乱しません。
空腹時と随時で基準が違う理由と、non-HDLの出番
中性脂肪だけ空腹時150・随時175と基準が2本ある理由は、食事の影響を最も強く受ける項目だからです。ガイドライン2022年版で随時採血の基準が新たに加わりました。
日本動脈硬化学会は、人は空腹の時間より非空腹の時間のほうが長く、食後の中性脂肪の高値も心血管疾患のリスクと関連することがわかってきたため、随時175mg/dL以上という基準を追加したと説明しています。
中性脂肪が400以上だとLDLは計算できない
見落とされがちなのが、LDLコレステロールの求め方です。従来のFriedewald(フリードワルド)の式は、随時採血の検体や中性脂肪400mg/dL以上では使えません。
その場合はnon-HDLコレステロール(総コレステロールからHDLを引いた値)で評価します。non-HDLの判定値・目標値は、対応するLDLの値に30mg/dLを足した数値とされています。
つまり中性脂肪が高い人ほど、LDLの数字だけを見ていると評価を誤りやすいということ。結果票にnon-HDLの欄がある場合は、そちらもあわせて確認しておきたいところです。
前日の飲酒・直前の食事でも数値は動く
厚生労働省の同プログラムでも、血糖や中性脂肪は直前の食事摂取や前日の飲酒の影響を大きく受ける点を考慮したうえで結果を伝えるよう記載されています。
健診前夜に飲み会があった、朝に何か口にした——こうした条件では数値が実力より高く出ることがあります。1回の結果だけで判断せず、条件を整えて測り直す価値は十分にあります。
飲酒と数値の関係はアルコールと中性脂肪の関係で詳しく整理しています。
診断されたあとの流れ|まず3〜6か月の生活習慣改善
脂質異常症と指摘されても、いきなり薬が始まるとは限りません。厚生労働省の同プログラムには、脂質異常症では一次予防(心筋梗塞などをまだ発症していない段階)で、まず3〜6か月の生活習慣改善が必要とされている旨が明記されています。
ただし数値帯によって、その3〜6か月の過ごし方が変わります。

中性脂肪の数値帯と示されている対応
| 中性脂肪(mg/dL) | 区分 | 示されている対応 |
|---|---|---|
| 空腹時150(随時175)未満 | 基準範囲内 | 継続して健診を受ける |
| 空腹時150(随時175)〜300未満 | 保健指導判定値超 | 生活習慣の改善に取り組む |
| 300〜500未満 | 受診勧奨判定値超 | 生活習慣を改善しつつ医療機関を受診 |
| 500以上 | 受診勧奨判定値超 | できるだけ早めに医療機関を受診 |
同プログラムのフィードバック文例集では、300〜500mg/dLについて「150mg/dL未満の人と比べて約2倍、心筋梗塞や狭心症になりやすいとされる」と説明されています。あわせて3〜6か月以内の再検査を勧める文例です。
500mg/dL以上では急性膵炎の可能性に触れ、できるだけ早めの受診を促す内容になっています。
目標値は全員同じではない
治療の目標値は、年齢・性別・喫煙・血圧・血糖・持病などから算出したリスク区分ごとに変わります。同じLDL値でも、目指す水準は人によって違うという点が重要です。
日本動脈硬化学会のQ&Aでは、糖尿病や慢性腎臓病、末梢動脈疾患などを合併する高リスクの場合、LDL-C 120mg/dL未満(non-HDL-C 150mg/dL未満)という水準が示されています。
心筋梗塞などをすでに発症した二次予防では100mg/dL未満、糖尿病を合併する場合などはさらに70mg/dL未満が推奨される、という整理です。
管理目標の優先順位はLDL-C → non-HDL-C → 中性脂肪 → HDL-Cの順とされています。自分がどの区分かは検査値だけでは決まらないため、主治医の評価が前提です。
薬が検討されるのはどんな場面か
生活習慣の改善を続けても数値が動かない場合や、最初から数値が高度な場合には薬物療法が検討されます。中性脂肪が500mg/dLを超えるようなケースでは、生活改善の効果を待つ余裕がないこともあります。
薬の種類や受診の目安は中性脂肪は薬で下げるべきか|治療薬の種類と受診の目安で整理しました。
放置したときに問題になること
脂質異常症が問題視されるのは、痛みなどの自覚症状がないまま動脈硬化が進むからです。診断や治療の目的も、動脈硬化性疾患と急性膵炎の予防に置かれています。
厚生労働省のフィードバック文例集では、LDL-Cが180mg/dL以上の場合、100mg/dL未満の人と比べて約3〜4倍、140〜180mg/dLでは約1.5〜2倍、心筋梗塞や狭心症になりやすいとされる旨の説明文例が示されています。
数値の高さがそのままリスクの大きさに対応する、というイメージを持っておくと行動につながりやすくなります。
放置した場合に何が起こるかは中性脂肪が高いと放置するとどうなるかにまとめています。
生活習慣で見直す優先順位
3〜6か月で数値を動かすなら、中性脂肪とLDLでは効く手が違う点を押さえると効率的です。同じ「食事に気をつける」でも、狙う先が変わります。
- 中性脂肪が高い:総エネルギー量・アルコール・糖質の見直しと身体活動の増加
- LDLが高い:動物性脂肪(飽和脂肪酸)を控え、魚や植物性の食品・食物繊維を増やす
- HDLが低い:身体活動を増やす、減量、喫煙している場合は禁煙
この振り分けは、厚生労働省のフィードバック文例集で項目ごとに示されている助言の内容に沿ったものです。中性脂肪が高い人にコレステロール中心の対策だけを勧めても、狙いが少しずれます。
具体的な食事の組み立ては中性脂肪を下げる食べ物・避けるべき食べ物、運動は中性脂肪を下げる運動が参考になります。
まとめ|数字の出どころを分けて読む
- 脂質異常症はLDL-C 140以上/中性脂肪 空腹時150・随時175以上/HDL-C 40未満のいずれか1項目で診断
- 学会の診断基準と健診の判定値は目的が違う(病名判定と行動の振り分け)
- 中性脂肪は300以上で受診勧奨、500以上で早期受診という線引きが示されている
- 中性脂肪400以上・随時採血ではLDLが計算できずnon-HDLで評価する
- 一次予防はまず3〜6か月の生活習慣改善。目標値はリスク区分で変わる
脂質異常症という言葉は重く聞こえますが、実態は「動脈硬化と急性膵炎を防ぐために、脂質の値を見張る仕組み」です。結果票の数字がどの基準に照らしたものかを分けて読めば、次にとるべき行動もはっきりします。
よくある質問
Q1:脂質異常症とはどのような病気ですか?
血液中の脂質の値が基準から外れた状態を指す病名です。LDLコレステロール140mg/dL以上、中性脂肪150mg/dL以上(随時175mg/dL以上)、HDLコレステロール40mg/dL未満のいずれか1項目でも該当すると診断されます。診断・治療の目的は動脈硬化性疾患と急性膵炎の予防に置かれています。
Q2:脂質異常症と高脂血症は何が違いますか?
指している状態はほぼ同じですが、HDLコレステロールが低い状態を含められるかどうかが違います。HDLは低いほど問題になるため「高脂血症」という言葉では表現しづらく、2007年に脂質異常症へ名称が変更されました。
Q3:健康診断の数値と記事の診断基準が違うのはなぜですか?
目的が違うためです。学会の診断基準は病名を判定するための線で、健診の判定値は保健指導と受診勧奨を振り分けるための線です。たとえばLDLコレステロールは、診断基準では140以上、健診の保健指導判定値では120以上と設定されています。
Q4:脂質異常症と診断されたら、すぐに薬を飲むことになりますか?
必ずしもそうではありません。厚生労働省の資料でも、心筋梗塞などを発症していない一次予防ではまず3〜6か月の生活習慣改善が必要とされています。ただし中性脂肪が500mg/dLを超えるなど数値が高度な場合は、早めの受診が勧められています。判断は主治医が行います。
Q5:中性脂肪の基準が空腹時150と随時175に分かれているのはなぜですか?
中性脂肪は食事の影響を最も強く受ける項目だからです。日本動脈硬化学会は、非空腹時の中性脂肪の高値も心血管疾患のリスクと関連することがわかってきたとして、随時採血175mg/dL以上という基準を追加しました。なお300mg/dL以上は空腹時・随時を問わず受診勧奨の水準です。
免責事項
※本記事は公的資料をもとにした健康情報の一般的な整理であり、特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。脂質の評価や治療方針は、他の検査値・持病・服薬状況によって個別に判断されます。数値を指摘された場合や服薬中の場合は、自己判断せずかかりつけ医・薬剤師にご相談ください。
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